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腫瘍と免疫


(縦軸は腫瘍細胞数、横軸は時間)

前回、癌細胞増殖曲線で腫瘍の増殖スピードについて概説しました。今回はこの癌をどう征圧するか考えてみましょう。

残存腫瘍細胞と化学療法投与との関係
抗がん剤投与の事を我々は化学療法(Chemoterapy)と呼びます。上の図のような腫瘍細胞を殺す薬が存在すると仮定して、以下のつたない文章を読んでください。

第1回の化学療法にて3 log cell kill(10-3の腫瘍細胞を殺すことをこう呼ぶ)の効果が得られると、腫瘍細胞は臨床的に検知不可能なサイズとなります。小さすぎて肉眼ではもう見えない大きさとです。化学療法のダメージから宿主(つまり患者さん)が回復するのを待つ間に、1 log cell regrowth(10-1の腫瘍細胞の再増殖)があった時点で、間髪を入れず第2回化学療法を行います。このようにして順次化学療法を4回行うと、腫瘍細胞は10個だけ残る計算となる。

さあ、ここで上の図をもう一度ぐっと睨み付けてください。

第5回の化学療法を行い、腫瘍細胞が0となった時に、化学療法の副作用に耐えて宿主に命が残っていれば、癌からめでたく生還です!
腫瘍細胞が全滅する前に、宿主が化学療法の副作用に耐えられなければ死亡となります。
これは化学療法でも放射線療法でも同じセオリーで考えてよいのです。

化学療法や放射線療法がしばしば失敗する理由
腫瘍細胞といっても、宿主細胞の遺伝子の極一部が変化しただけのもので、元はと言えば・・宿主細胞そのもの。
腫瘍をたたけば、宿主が叩かれるから・・副作用が目立つので大量を使えないのです。

一方、抗生物質は種の異なる細胞を叩くわけですから、比較的副作用なく思い切り(細菌)を叩くことができます。
この図でお見せした以上に効果が出てくる可能性があるのです。

さらに、抗がん剤(または放射線治療)を投与するたびに、腫瘍細胞は抗がん剤(放射線治療)への耐性を強くします。宿主のダメージは大きくなり、副作用による死亡が不可避となりうる。目に見えない大きさの腫瘍をたたく事は、副作用だけが目立つので、主治医、患者さんともに大変ツラいものです。

なぜ現在の抗がん剤が臨床的に効かないかというと、はっきり言って10-3もの腫瘍細胞の殺戮効果が無いからです。せいぜい−50%程度の殺腫瘍細胞効果しかない。抗がん剤を3回投与して、腫瘍のサイズが半分になれば有効(PR:partial response)と考え、その程度の中途半端な薬が厚生労働省から認可され、投与されているのが臨牀の現実です。これじゃ、すべてのがん患者さんの命を救えるわけがないですね。これからの抗がん剤の認可基準は、本当はもっと厳しく、完治(CR:complete response)を目指したものにすべきだと思います。

新しいブレイクスルーを勝ち取るためにも、国はこの研究部門にもっと思い切りお金をかけて欲しいです。効かない抗腫瘍薬しかない今だからこそ、研究にたっぷりと予算をつけて、新たな展開を示して欲しいものです。

最後は免疫力が鍵を握る
もし最後の100個くらいの腫瘍細胞(勿論臨床的には検知できない量の腫瘍塊)を宿主の免疫力が叩き壊してくれたら、本当に癌から生還となります。我々の体の中では、腫瘍細胞は毎日のように発生しているといわれています。しかし、若いときには免疫Systemが腫瘍細胞を早期に発見し叩き壊してくれるのです。この腫瘍免疫力のおかげで、生物はその生命を維持しているのです。

腫瘍細胞と正常の細胞の決定的な違いを掴み、其処を叩くことができれば医学史は激変するでしょう。逆に言うと、このあたりの研究の進歩が望まれるところです。しかし「腫瘍細胞と正常の細胞の決定的な違いを掴む」という大切なPointが、いまだ闇の中です。この研究こそが、とりもなおさず、21世紀の免疫学の進歩に委ねられているのです。

残念ながら加齢とともに腫瘍に対する免疫力は低下する。喫煙やストレスなどがこの腫瘍免疫力を弱らせます。

だからこそ、生活習慣を健康的なものに改善する事がとても重要であるということを御理解いただけたら幸いです。


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